今時の魔道士 - 第三章 平和の裏側


都内のとあるビルの一階に、ただっ広い一室があった。
その部屋は意外と大量に朝日が差し込み、床に反射して明るい。
もう一つ、室内にも光源はあるが、普通の人はそうとは思えないだろう。
今、この部屋では、奇妙な三人が床に座っている。
「おい、この光は何なんだよ!」
発光する少女、佐倉由紀。
「加賀、突然言っても普通は理解出来ないと思う。」
きっと万年平社員、秋山頼斗。
「じゃ、何て言えば納得すんだ?」
上司嫌われ度上位候補、加賀浦和。
「…発光する少女?薄幸の美女とかけたのか?分かりにくいしつまんないな…」
「君はいいよ、僕なんて万年平社員呼ばわりされた…」
「俺なんて上司に嫌われるんだぜ?まともな紹介してくれよ…」
うーん、簡潔に君らのことが分かるいい文だと思ったのだが…
「ところでさ、少女ってオレの事?少年の間違いじゃ…」
「そこは合ってるから。」
さて、二人のツッコミが入ったところで、キャラとの会話終了。
そもそも、どうやってキャラが作者と会話してるのか。
「話を戻すけど…俺の魔法とか言ったよな?」
「そう、お前の魔法。光ってるのは、電気の魔法だからだな。」
加賀はごく普通であるかのように答えた。当然、佐倉には全く理解できない。
むしろ、突然そう言われて不信感が先に立った。
「どういう仕掛けかは知らないけど、何の目的でやってるんだ?」
佐倉は加賀をにらんで問いただした。
加賀は困った様子を見せながらも、間を置かないように答えた。
「魔法は本来は誰でも使えるんだ。お前が使えても不思議じゃない。」
もちろん、そんな話で納得する様子はない。
佐倉はますます挑戦的になった。
「そんなに言うなら、証拠を見せてみろよ。」
言われて、加賀は無言で腕を振った。
その手から戦闘の時と同様に火の玉が出た。
ついでに加賀は、その火の玉から炎を出してみた。
「…それで信じろって?」
「証拠を見せろって言われたから魔法使っただけじゃないか。どうすれば信じるってんだ?」
佐倉は少し考え込んだ。
その時、口を挟む機会がなかった秋山が、急に加賀に声をかけた。
「加賀、ここは魔法のことは忘れてもらって…」
「分かったよ、確かに何見ても納得しそうにねえ。」
佐倉の言葉に秋山の言葉はさえぎられた。
秋山はすぐにまた寝そべった。会話に入れず、入ろうとしてもすぐにさえぎられて、少々ふてくされているかもしれない。
「で、この光が魔法だとして、オレはどうすれば?」
佐倉が質問した。
秋山の疎外感が深まる中、二人の会話が続く。
「目立つから、何とかコントロールしてくれねぇか?」
「で、それってどうやるんだ?」
その時、それまではっきりと答えていた加賀が、急に言葉をにごし始めた。
「あー、それは、だな。俺、知らねぇんだ。」
「…は?」
佐倉はあっけに取られた顔で加賀を見た。
彼が知らなければ、一体どうすればいいのか、佐倉には見当もつかない。当然、寝そべっている役立たずは念頭にない。
その様子を見て、加賀は付け足した。
「正直言って、お前の場合はレアケースなんだ。俺は弱い魔法から順に慣れたから自然に扱えるわけだが、お前はどうもいきなり強い魔法を発したからコントロール出来ていないらしい。」
「そんな説明はどうでもいいんだ、オレはどうすれば?」
佐倉は、質問を繰り返した。
加賀は手を頭に当てて考え込んだ。
「遠隔魔法はイメージで動かすからな…何かイメージしてみるとか?」

それより少し前。
私立楓中学校では、一時間目が始まっていた。
二年A組では、国語の授業が今始まって間もない。
「矢崎はまた休みか。しょうがない奴だな…おや、佐倉も休みか?」
教壇では、先生が出欠表を見て不思議そうに首をひねっていた。
それを受けて教室の各所で軽いざわめきが起こる。
「ナユ、本当に休み〜?どうしたんだろねぇ〜?」
ナユとは佐倉由紀のことである。「七不思議のユキだね〜」の一言で決まったあだ名で、本人も気に入っている。
その呼び名の通り、学校初日にして「由紀の七不思議」が作成され、有志により保存、管理されている。
ちなみに、この七不思議は初日から修正を加える事を禁じているために少々強引な部分もあるが、その禁がなければ管理出来なかっただろう。増えすぎて。
「ホント、あの子が欠席なんて珍しいよねぇ。」
「しかもキンパツの授業じゃん?ナユなら風邪引いてても来そうなのにね。」
キンパツとは、現在教壇にいる坂上先生の事である。
語源は不明だが、金髪の生徒の気持ちを理解するために金髪に染めたから、という説が有力である。
何を言う時も説教くさくなるその口調は全校生徒に疎まれているが、佐倉だけはそこがいいと言う。
「はいはいみんな、今は授業中です。授業に集中しましょう。」
出欠の確認を終えたキンパツがようやく呼びかけた。
それを聞いて次第にざわめきが収まっていった。
「いいですか皆さん。他人の心配をするのは多いに結構。でもそれは場所と時間を…」
「また始まったよ、説教…これがいいだなんて、ナユってやっぱ不思議だよね。」
「あずさー、聞こえてるぞー。人の話はちゃんと聞くように。何か言いたかったらそれから…」

「…なあ、さっきまでの時間は何だったんだ?」
佐倉の体はもう光っていない。どうやら魔法のコントロールに成功したようである。
その手元には、光の玉が見える。どうやら魔法らしい。
「まぁ、結果オーライってやつじゃねぇか?」
加賀は床に座っていたが、立ち上がった。その脇にはジュースの空き缶が一つ落ちている。
ジュースを買うには数百メートルほど離れた自販機まで行く必要がある。つまりよほど時間に余裕があったらしい。
「再度言うが、僕の発案だからな。」
秋山は相変わらず寝そべっている。
窓の外の空を眺めているようだが、当然UFOが飛んでいるといった事はない。ただ見ているだけのようだ。
数分前まで、佐倉の魔法コントロールの修行は難航していた。何をすればいいのか皆目見当もつかないからだ。
まずはイメージで数分頑張ってみたが、結局ほとんど効果はなさそうだった。そこで運動してみようとラジオ体操をしてみたが、やはり効果はなかった。
様子見に飽きた加賀がジュースを買って戻ってきた頃、何が楽しいのかずっと外を見ている秋山が、ふと魔法を出したらどうかと提案した。
魔法を出すとは、魔法の源である「精霊」を出現させる事で、それにより体にかかる魔法が減って制御しやすいかもしれない、と思ったらしい。
その提案に従って佐倉は右腕に力や気合や魂や色々を込めて、思いっきり振った。
その結果、現在に至っている。
佐倉の手元の光の玉は、加賀や刺客の物よりも不安定らしく、わずかだが不規則に振動したり大きさが変わったりしている。
「ああ、そこはありがとう。でもオレはまだあんたを許しちゃいないからな。」
佐倉は秋山の背に攻撃的な視線を投げかけた。
「…あの時秋山が黙ってたの、まだ根に持ってるのか…」
加賀がつぶやいた。幸い、佐倉には聞こえなかったらしい。
佐倉が自分の精霊を見つめているのを見て、加賀は魔法の説明を再開しようとした。
「あ、佐倉、魔法の操り方…」
「お、これって動くんだな。なるほど、こうするとこうなるのか。」
「…」
加賀が教えようとした事を先に佐倉がやってしまった。加賀が一瞬、言葉を失う。
佐倉が絶え間なく動かしているのでよくは分からないが、光の玉は次第に安定していっている気がする。
「あ、何か言った?」
「え、い、いや、別に…」
「そう?まあいいや。」
「あ、そうだ、佐倉…」
「うわっ!」
急に光の玉から破裂音とともに閃光が放たれ、弧状の筋を描いてコンクリートの床に消えた。
それまで会話のみだった静けさからの急な音と光に、秋山が驚いて振り返った。
「雷…?これが魔法か……で、何か言った?」
「いや、別に…」
加賀はまたもや言いたかった事を先にやられて、少し落ち込んでいる。
光の玉はもう完全と言っていいほど安定していて、球形からほとんどゆがまなくなっている。
それを見て秋山は立ち上がった。
「加賀、この子の魔法も大分コントロール出来ているようだし、そろそろ魔法庁に行かないか?」
「いやまだ戦闘の…分かったよ、行けばいいんだろ。」
加賀は床にまだ敷いてあった上着を拾い上げ、ほこりを落とした。
秋山はと見ると、いつの間にか上着を着ていた。
「まぁ、行く前に一応魔法庁に連絡を入れ…あ!」
「どうしたんだ?」
「俺ら、会社に行く途中だっただろ?」
「ああ、そうだった。けれどもそれがどうしたんだ?」
「まだ休みの連絡入れてないよな?」
「…」
「…」
「…するなら君がやってくれ。僕にはいい仮病が思いつかない。」
「いや、俺がお前の分まで言ったら不自然だろ?」
ふと佐倉は窓の外を見た。太陽は窓枠より上にあるらしい。そういえば室内もやや暗くなったような気がする。
二人が会社に仮病の電話をかけている間、佐倉はビルの隙間から見える雲を追っていた。


あとがき
第三章、色々と魔法の事が分かったり分からなかったりしています。
途中で出てきた学校シーンは後で重要な役割…はないかもしれない(ぇ)
本当は戦い方とか、もっと出したかったんですがね…
次回はようやく魔法戦が見られる!予定…


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